在庫管理でAIを活用するメリットとは?活用事例や注意点も解説

在庫管理の効率化は多くの企業にとって重要な課題です。ヒューマンエラーで在庫が過剰になったり、見込み不足で欠品したりといったミスは、ぜひとも避けねばなりません。そこで注目されているのがAI技術の活用です。今回は、在庫管理にAIを活用するメリットや導入事例、注意点について解説します。


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在庫管理にAIを活用するメリット

まず、在庫管理にAIを活用することで得られる3つのメリットを紹介します。

過剰在庫や欠品の防止

在庫管理にAIを活用することで、過剰在庫や欠品のリスクを大幅に軽減できます。AIは膨大なデータを分析し、精度の高い需要予測を行うことが可能です。従来の人手による予測よりも正確に必要な在庫量を把握できるようになります。

リアルタイムでの在庫状況の把握もAIの強みのひとつです。画像認識技術を活用したAIカメラにより、棚の状況を常時モニタリングすれば、在庫の可視化が実現します。この技術は、滞留在庫の早期発見にも役立ちます。

従業員の業務負担の軽減

AIが発注量の決定や在庫の把握といった作業を効率的に処理することで、従来多くの時間と労力を要していた作業が軽減されます。担当者は煩雑な作業から解放され、人にしかできない業務に注力できるようになります。

また、AIによる自動発注システムの導入により、人為的ミスを防ぐことも可能です。発注忘れや数量間違いなどの問題を回避しつつ、適切な在庫水準を維持できるため、従業員の負担軽減につながります。

精度の高い需要予測を実現

AIは膨大なデータを瞬時に分析し、複雑なパターンを見出すことが得意です。そのため、過去の売上データはもちろん、季節変動や顧客の購買行動など、多様な要因を考慮に入れた予測が実現できます。

従来の手法では、担当者の経験や勘に頼る部分が大きく、主観的な判断が避けられませんでした。一方、AIによる需要予測は、客観的なデータに基づいた分析が可能です。

また、AIは短期的な予測だけでなく、中長期的な需要トレンドも把握できます。将来を見据えた視点により、より適正な在庫の維持につながります。

在庫管理のAI活用事例5選

在庫管理へのAI導入は、さまざまな業界で革新的な成果を上げています。下記に、5つの先進的な企業の事例を紹介します。

サンライズサービス|発注ミスの削減

寿司などの宅配を展開するサンライズサービスは、飲食店特化型AI自動発注サービス「HANZO」を導入しました。これは、天候による売上変動や直近の注文傾向を考慮し、AIが店舗ごとの売上を予測するクラウドサービスです。

発注業務は、これまでは店長や経験豊富なスタッフしか対応できませんでした。作業量の負担は大きく、発注にかかわる業務を学ぶには数か月かかるという課題もありました。

そこで、HANZOを導入したことで、発注業務にかかる時間と心理的負担が軽減され、サービス向上や教育により多くの時間を割けるようになっています。

イトーヨーカ堂|従業員の負担軽減

大手スーパーを運営するイトーヨーカ堂は、全国130以上の店舗にAIを活用した商品発注システムを導入しました。

システムの対象は、加工食品や冷凍食品など約8000品目です。商品価格や陳列情報、天候データ、曜日ごとの特性、来客数など多岐にわたる情報を分析し、最適な販売予測数を算出します。発注担当者は迅速かつ的確な判断が可能となりました。

2018年のテスト運用では、従業員の発注作業にかかる時間が平均約3割短縮されたことがわかっています。営業中の品切れも減少し、適正在庫の維持にも成功しています。

AI導入による時間短縮の実現で、接客や売場づくりなど、より付加価値の高い業務に注力できるようになりました。

ワークマン|タイムリーな商品入れ替えの実現

ワークマンは、日立製作所との協創により、発注業務を自動化するAIシステムを導入しました。この取組は、約10万品目に及ぶ商品の在庫管理を効率化することを目指したものです。

システムの特徴は、在庫回転率に応じて異なるアルゴリズムを採用している点です。在庫回転率の低い商品には「自動補充型」を、高い商品には「AI需要予測型」を適用し、それぞれの特性に合わせた発注を実現しています。

また、販売状況をリアルタイムで分析し最適な発注量を算出することにより、従来30分ほどかかっていた発注業務が約2分に短縮されました。タイムリーな商品入れ替えを可能にし、欠品の抑制や在庫の適正化にも貢献しています。

セブン-イレブン・ジャパン|発注の適正化

大手コンビニエンスストアチェーンのセブン-イレブン・ジャパンは、2023年春に国内全店舗へのAI発注システム導入を完了しています。

日用品など約2,500品目を対象に、過去の発注データを分析し最適な発注量を自動的に算出します。導入の結果、従来1日約80分を要していた発注作業が約45分にまで短縮され、従業員の業務負担が大幅に軽減されました。

このシステムは「セブンセントラル」と呼ばれるクラウドベースのデータ基盤と連携しており、全店舗の在庫データをリアルタイムで活用しています。より精度の高い需要予測と適切な発注が可能となり、欠品や過剰在庫のリスクを低減しているのです。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ|販売スペースの有効活用に成功

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)はTSUTAYAの書店事業において、需要管理サービス「Conata™ Demand Planner」を導入し、返品率の低減に成功しました。

このシステムはPOSデータや会員情報などの膨大なデータを分析し、需要予測による発注および個店の品揃え最適化をサポートします。独自のオントロジー技術を用いて、書籍・顧客・書店間の新たな関連性を見出し、より精度の高い予測を実現しています。

在庫管理でAIを導入する際のポイント・注意点

AI在庫管理システムの導入には多くの利点がありますが、成功のためには下記にあげる主な注意点に注目しましょう。

導入目的・導入範囲を明確化する

AIを在庫管理に導入する際、ただ最新技術を取り入れるだけでは、期待する効果を得られない可能性があります。

まず、自社の業務プロセスや直面している課題を詳細に分析し、AIシステムに求める機能を具体的にリストアップすることが大切です。高機能なAIシステムほどコストが高くなるため、必要最小限の機能を見極め、適切なシステム選択をしましょう。

AIの活用効果を最大化するには、AIと人間の役割分担を適切に設定することも重要です。例えば、在庫数の計測や需要予測などの領域はAIを活用し、壊れやすい商品の取り扱いなど、リスクの高い業務は人間が担当するといったものです。

かかる費用やリソースを算出しておく

AI導入には初期投資として相当な金額が必要となるうえに、システムを効果的に運用できる人材の確保や育成も欠かせません。

導入前には、システム導入費用、運用・保守コスト、社員教育・研修費用、システムアップデート費用などを考慮した試算が必要です。

同時に、導入によって期待される効果も具体的に算出しておくべきでしょう。例えば、入出庫データ入力の作業時間削減、欠品や在庫ロスによる損失の減少、在庫確認作業の効率化などがあげられます。

膨大な自社データが必要

AI在庫管理システムの導入には、膨大な量の質の高い自社データが不可欠です。AIの学習とアルゴリズム構築に必要な自社データは、正確な分析と予測の基盤となります。

自社の過去データ蓄積量を事前に確認し、不足があれば対処が必要です。特に、売れ筋でない商品のデータ不足は、分析の精度が低下する原因となります。

データの質も重要で、誤差やノイズの少ないデータ収集と整理に時間と労力をかける必要があります。

まとめ

AI技術の活用により、在庫管理の精度向上が実現可能です。導入には目的の明確化やコスト試算などの課題もありますが、適切な計画と実施により大きな効果が期待できます。自社の状況を見極め積極的に新技術の活用を進めることで、業務効率化や競争力の向上につながるでしょう。

※この記事は、2024年9月時点の情報に基づいています。