自治体における生成系AIの活用方法とは?その導入事例を紹介

自治体での日々のタスクにおいて、職員の業務負担や作業工数に課題を抱えてはいませんか。現在、自治体でも生成系AIを取り入れる動きが増えてきました。 今回は、自治体における生成系AIの活用状況や導入事例、課題について紹介します。


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自治体における生成系AI活用の動き

生成系AIは自治体においても活用が進んでおり、成果がみられています。まずは、自治体での活用状況や活用シーンについて紹介します。

自治体における生成系AI導入の広がり

総務省の調査によると、令和5年12月31日時点において24都道府県が生成系AIを導入済みです。実証実験中の21都道府県を含めると、45の都道府県が生成系AIについて何らかの取り組みを行っていることがわかります。

自治体での生成系AIの活用事例としてもっとも多かったのが、「あいさつ文案の作成」です。あいさつ文案の作成だけで、年間1,500時間以上の削減効果を得られた自治体もあったようです。

生成系AIは、自治体では議事録の要約でも使われており、従来であれば半日要していた作業が、30分から1時間程度に短縮されたものと推察されています。

導入して間もない自治体もあるため、効果検証ができていない自治体もありますが、全体として作業効率にプラスの効果があることがわかります。

出典:総務省「自治体における生成系AI導入状況

自治体における生成系AIの活用シーン

自治体での生成系AIの主な活用シーンは下記の通り、多岐に渡ります。

・あいさつ文案の作成
・メール文面の作成
・企画書案の作成
・マニュアル案の作成
・SNS投稿文案の作成
・想定問答の文案の作成
・議事録の要約
・翻訳
・マクロやVBAなどのローコードの作成
・質問への回答作成(即時回答)
・書類の自動作成
・防災情報の自動作成

生成系AIは定型的な文書の作成と相性の良いシステムです。メール文や企画書など、文書や書類作成で広く使用されており、業務の効率化に役立っています。

また、生成系AIによる自動回答などは、窓口手続きの円滑化や住民向けサービスの品質向上にも貢献しています。

自治体における生成系AIの導入事例

全国の自治体の生成系AIの導入事例を5つ紹介します。

1.東京都品川区

自治体の業務のなかでも戸籍業務は関係法令が多く、複雑な事例も増えていることから、専門性の高い業務として知られています。

自治体では一定周期の人事異動があることから、東京都品川区では戸籍事務の知識を職員が効率良く習得できるようにすることが課題のひとつとしてありました。

品川区では、令和2年11月から約5か月間、電子書籍AI検索システムの実証実験を実施しています。実証実験では、従来の単語での検索に比べて検索ヒット数が向上し、戸籍届出書審査などの調査時間が約半分に削減できました。

実証実験を経て、東京都品川区では全国で初めて戸籍関連専門書籍の電子データ化を行い、令和4年8月26日から電子書籍AI検索サービスを導入しています。

出典:品川区「全国初!戸籍専門書籍の電子書籍AI検索サービスを利用開始

2.茨城県つくば市

茨城県つくば市では、会議の議事録作成でICレコーダーを何度も聞き直して作業することに時間がかかるといった課題がありました。そこで、会議議事録の工数の課題を解決する方法として、生成系AIを利用した共同研究が2019年から開始されます。

議事録などの作成業務を自動化する試みの結果、クラウド型のAI議事録ソリューションを利用することで、議事録の作成時間を約25~70%削減することに成功しています。

つくば市はスーパーシティ構想の国家戦略特区にも指定されている都市です。2030年までに住民参加型の行政サービスを実現することを目標に、生成系AIを活用した住民の声の抽出や分析による可視化に向けた取り組みも先行して行われています。

出典:
つくば市「つくば公共サービス共創事業
内閣府国家戦略特区「「スーパーシティにおけるデータ連携基盤を活用した住民参加型の行政サービスの提供に向けた調査検討業務」の結果を報告します(令和6年5月7日)

3.神奈川県横須賀市

神奈川県横須賀市は、全国に先駆けて、全庁でChatGPTの導入を進めた自治体です。令和5年4月20日より全庁での活用実証が行われ、同年6月に本格実装することが公表されました。

実証から約1か月間で全職員の半数がChatGPTを利用し、多くの職員が仕事の効率が上がったことを実感できたと回答しています。ChatGPTは、主に文書案の作成や校正、情報の検索、アイデア出しなどで活用されています。

出典:横須賀市「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)(2023年6月5日)

関連記事:「ChatGPTで業務効率化できること8選!プロンプトや注意点もご紹介

4.京都府京都市

京都府京都市では、電話での問い合わせに対して限られた人員でスムーズに対処できないことに課題を抱えていました。問い合わせの内容によっては、取りつぎや各所への確認が必要になるためです。

京都市が住民向けサービスの品質向上のために取り入れたのは、生成系AIを活用したチャットボットです。令和6年1月19日から子育て施策に関する制度や手続き、同年の9月24日から障害福祉サービス事業所からの問い合わせに対して運用を開始しています。

利用者は、チャットボットを利用することで、24時間365日どこにいても必要な情報を得られるようになりました。利用後のアンケートは、チャットボットの精度向上に役立てられています。

出典:
京都市「京都市AIチャットボットについて
京都市「チャットボット・問合せフォームを活用した障害福祉サービス事業所等からの問合せ対応の迅速化

5.宮崎県日向市

宮崎県日向市では、DX推進計画の一環として、独自データを学習させた生成系AIの日向市モデルの構築プロジェクトを進めています。

実証では、利用を一部職員としていましたが、全職員に展開して、職員の業務負担の軽減や市民の利便性の向上を実現する見込みです。将来的には、LINEなどのアプリと連携した、市民向けの対話型サービスの提供を目指しています。

自治体における生成系AI活用の課題・ポイント

自治体での生成系AI活用による主な課題や解決策について紹介します。

情報漏洩のリスク

生成系AIに個人情報や機密情報などを読み込ませることにより、出力時に外部に流出するリスクがあります。

情報漏洩リスクを軽減するには、重要な情報である個人情報などを生成系AIに読み込ませないことです。すべての担当者が情報を適切に取り扱えるよう、ガイドラインの策定や管理体制の強化を図ることも重要です。

生成系AIの機能を利用して情報漏洩リスクを低減する方法もあります。例えば、ChatGPTのオプトアウト機能の活用です。ユーザーの入力データをAI学習に利用できないようにする機能で、生成系AI利用による情報漏洩を防止できます。

関連記事:「ChatGPTには情報漏洩のリスクがある?事例や対策を解説

著作権侵害のリスク

AIで生成したコンテンツが、既存の著作物に酷似している場合、著作権侵害に問われる可能性があります。

生成系AIの基本的な知識や適切な使用方法、関連するリスクを理解してもらえるように、利用マニュアルを公開するなどの対策が必要です。

また、生成系AIが出力したコンテンツをそのまま使用するのではなく、必ず人がチェックできるような仕組みを設けましょう。既存の著作物との類似性などを人が確認することで、著作権侵害のリスクを軽減できます。

より厳密なチェックを行う際には、法律や著作権に詳しい専門家に依頼する方法もあります。

生成系AIによる著作権侵害の主なケースは、下記の記事で詳しく紹介しています。
AIが著作権を侵害するケースとは?ビジネス利用で知っておきたい注意点

生成系AIを活用する人材の不足

AIが登場したことで問題となっているのが、生成系AIを利用できる人材の不足です。経済産業省のIT人材需給に関する調査によると、2030年にはAI人材が12.4万人不足することが予測されています。

組織内で生成系AIを効果的に活用していくには、AIを利用できる人材を育成していく必要があります。対策として考えられるのが、研修プログラムや実践的なトレーニングの実施です。

出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)

ハルシネーションの発生

ハルシネーションとは、AIが事実でない誤った情報を生成することです。過去には、福岡市後援の官民連携サイトで、生成系AIが実在しない観光名所を紹介してしまった例もあります。

生成系AIの利用で、ハルシネーションを完全に防ぐことはできません。担当者全員に、ハルシネーションの存在を共有しておくことが重要です。また、ハルシネーションのリスクを低減する対策として、人によるファクトチェックの徹底も効果的です。

まとめ

自治体での生成系AIの導入には、人手不足の解消や業務効率化などのメリットがあります。多くの自治体で生成系AIの導入が行われており、導入まで至っていないものの、将来の導入に向けて実証実験を行っている自治体も多く存在します。

しかし、自治体での生成系AIの導入には課題があるのも事実です。セキュリティ対策の強化や人材の育成、適切な利用の周知により、今後さらなる利用の拡大と業務効率化が図られることが期待されています。

※この記事は、2024年12月時点での情報です。