企業向け生成系AIガイドラインの事例
まずは各省庁がガイドライン策定の参考資料として企業向けに一般公開しているガイドラインを紹介します。企業における生成系AIの利用に必要な基礎知識、原則などが整理されています。
デジタル庁
デジタル庁が公表した「ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン」には、ChatGPTを活用したデータ連携や業務改善などに役立つ基礎知識、アイデアがまとめられています。下記が主な内容です。
・ChatGPTを外部システムから利用できる「GPT API」の仕組み
・具体的な利用事例
・プロンプト作成のポイント
企業における実践的な生成系AIの活用に役立ちます。
総務省
総務省で公開している「AI利活用ガイドライン」では、ビジネスでAI技術を利用する際に必要となる次のような指針や注意事項が示されています。
・AIの基本理念
・利活用の流れ
・AIの利用で留意すべき10個の利活用原則
AIの便益だけでなく、安全性や信頼性も確保した利活用の推進を目的に作成されました。各利活用原則が適用されるタイミングも一覧化されているので、利用シーン別の論点整理やAIをめぐるトラブル防止にも役立つ内容です。
経済産業省
経済産業省と総務省が共同で提供する「AI事業者ガイドライン案」では、AI活用の倫理性や安全性を管理するためのAIガバナンスに関する統一的な指針を示しています。
AI技術の発展と普及に備えるべく、開発や運用で発生するリスクへの理解を深めながら、企業に対して安全かつ安心なAI活用を促す内容です。
具体的には、基本理念や原則、共通の指針、AIガバナンスの構築のほか、「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」のそれぞれで配慮すべき事項についても記載されています。
社内向け生成系AIガイドラインの事例
次に、自社・自組織で利用するAIガイドラインが一般公開されている事例を紹介します。
東京都デジタルサービス局
東京都デジタルサービス局作成の「文章生成AI利活用ガイドライン」は、東京都が都職員に向けて、文章生成AIの利活用を促進する目的で指針を示した文書です。
リスク低減を図りながら、ChatGPTをはじめとする文章生成AIの有効活用を推進するため、下記のような内容について具体的に記載しています。
・文章生成AIの概要
・活用上のリスク
・利用上のルール
・効果的な活用方法
今後も新たな知見や利用者からのフィードバックを踏まえ、内容の見直しが行われる予定です。
株式会社CYDAS
人材プラットフォームを提供する株式会社CYDASでは、社員向けに作成した「生成AIの利用ガイドライン」を一般公開しています。データ入力時や生成物の利用時における注意事項をあげて、生成系AI利用の基本ルールを分かりやすく説明した内容です。
想定される具体的なリスクを取り上げながら利用基準が述べられているので、生成系AIの利活用に対する従業員の理解を促したいときの参考になるでしょう。
【サイダス社】生成AIの利用ガイドライン_第1版_2023年5月公開
株式会社KiteRa
株式会社KiteRaは自社サービスの利用企業に向けて、ChatGPTの安全な利用に向けた「生成AI利用規定」を提供しています。
利用方針をはじめ、情報漏洩や著作権侵害といった生成系AIを活用する際に生じるリスクと対応策などが盛り込まれています。生成系AIに対する従業員の理解を助けるだけでなく、安全に利用するための環境整備、企業のガバナンス構築にも役立つ内容です。
富士通
「Fujitsu生成AI利活用」は、生成系AIの安全な活用のため、従業員向けにリスクや対応策を解説したガイドラインです。具体的には、生成系AIの概要やChatGPTの仕組み、活用事例のほか、下記のようなリスクについても述べられています。
・正確性
・公平性
・著作権侵害
・情報管理
・悪用
富士通の技術部門や事業部門の担当者の意見も反映された読みやすい内容です。倫理や法規制からみる生成系AIの課題を理解する上で参考になります。
生成系AIガイドラインの作り方
ここでは生成系AIガイドラインの作成を円滑に進めるための5つのステップを紹介します。
ステップ1.JDLAの「生成AIの利用ガイドライン」を活用する
JDLA(一般社団法人日本ディープラーニング協会)が雛形として一般公開している「生成AIの利用ガイドライン」を自社のガイドライン作成に有効活用しましょう。このガイドラインには、生成系AIの安心・安全な利活用に必要な方針や考え方がまとめられています。
「生成AIの利用ガイドライン」の内容を基本に、自社の状況に応じた変更を加えていけば、ガイドラインの作成がスムーズに進められます。まずは「生成AIの利用ガイドライン」から、自社にも必要と思われる項目を書き出していきましょう。
多くの場合、情報漏洩や権利侵害などに関する記載は、どの企業のガイドラインにも必要です。抽出すべき項目で迷ったら、下記のような事項を検討してみてください。
・利用が禁止される用途
・データ入力に際して注意すべき事項:個人情報や機密情報などの漏洩対策
・生成物の利用で注意すべき事項:誤情報の拡散、著作権や登録商標・意匠権の侵害対策、商用利用の規定など
ステップ2.自社に合わせてカスタマイズする
JDLAのガイドラインから必要な項目を抽出できたら、事業内容、業界の特色、用途などに合わせて、内容の追加や修正、表現の調整などのカスタマイズを行います。下記はカスタマイズ内容の例です。
・ブランドイメージや価値観を反映させた固有の原則、指針
・AIシステムの運営体制
・AIリテラシー獲得に向けた社内研修の実施
なお、OpenAI社やGoogle社などのAIサービス提供企業では、利用規約で禁止事項を定めています。ガイドラインを作成する際は、自社で使用するAIサービスの利用規約を確認した上で、必要があれば内容を反映させましょう。
ステップ3.生成系AIの具体的な活用方法を盛り込む
次に、部署や業務ごとに生成系AIの利用シーンを洗い出し、具体的な活用方法や注意点を詳細にわかりやすく記載します。下記は企業におけるAI活用の一般的な例です。
・事務:文書作成のサポートやローコードの自動生成
・企画:新商品やコピー案のアイデア出し
・マーケティング:画像や動画などの自動生成
業務でよく使用するプロンプトの事例、プロンプト作成のポイントも盛り込むと、さらに実践的な内容になり、AI活用の促進にも寄与します。
ステップ4.ガイドラインの下書きを関係各所に共有する
ガイドラインの下書きができあがったら、この段階で一度関係者に共有してフィードバックをもらいましょう。下書きの共有は、社内での議論の活発化、完成度の向上、合意形成を促します。
新しいアイデアや改善点を集約し、反映させて最終的なアウトプットの質を高めるフェーズです。
ステップ5.ガイドラインの完成|実践状況をモニタリング
作成したガイドラインは、経営層からの承認を経て完成です。AIガイドラインの社内浸透を図る際は、全社的なAI活用のビジョンやAIの可能性も一緒に伝えることで、従業員の積極的なAI活用を後押しできます。
運用フェーズに入ったら、部署ごとにAIガイドラインの活用状況をモニタリングし、必要に応じてガイドラインの内容を見直します。生成系AIの基礎知識、活用方法、発生し得るリスクなどへの従業員の理解を促すには、次のような施策も効果的です。
・生成系AIに関する研修やワークショップの開催
・AIガイドラインの内容を問うテストの実施
・生成系AIについて情報収集できる社内コミュニティの形成
まとめ
自社の活用状況に合った生成系AIガイドラインを作成しておくことで、生成系AIの利活用に伴うリスクの低減が図れます。「作成方法がわからない……」という場合は、ほかの企業や組織のガイドラインを参考にしてみましょう。
生成系AIのリスク対策としてAIガイドラインは重要ですが、そもそもセキュリティ性の高いAIツールが導入されていれば、AI活用のリスクは低減されます。
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※この記事は、2024年10月時点での情報です。