自治体のDX推進の必要性
2020年12月に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定し、2022年の6月にはビジョンとして「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。
政府の目指すデジタル社会実現のために、行政を担う自治体の役割は重要なものとされています。そこで、総務省は自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進に取り組んでいます。
出典:「自治体DXの推進」(総務省)
自治体DXが推進される理由
昨今の新型コロナウイルス対応で、地域や組織でデータが横断的に活用できていないなどの問題が表面化しました。こうした状況を踏まえ、自治体におけるデジタル化の必要性が高まったことが推進理由のひとつです。
自治体DXにおいてまず目指すところは、下記の2つです。
・行政サービスにデジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
・デジタル技術やAIを活用して業務を効率化し、行政サービスのさらなる向上につなげる
さらに多様な主体によるデータの流通が促進され、民間企業において新たな価値(デジタルビジネスなど)が創出されることを期待しています。
自治体DX推進のために必要な要素
自治体DXを推進するには、ITツールを導入するだけでは不十分です。組織体制整備や、デジタル人材確保、国主導の支援、自治体全体の取り組みなどを計画的に実施し、推進体制を構築する必要があります。
自治体DX推進計画での重点取組事項
デジタル社会実現のための基本方針や重点計画で掲げるビジョン実現のためには、具体的な行動計画が必要です。
そこで、自治体が取り組むべき内容の具体化や国の支援策を整理するために、「自治体DX推進計画」が総務省により取りまとめられました。
この計画のなかで、自治体が重点的に取り込むこととして示されているのが6つの重点取組事項です。
1.情報システムの標準化・共通化
2.マイナンバーカードの普及促進
3.行政手続のオンライン化
4.AIやRPAの利用推進
5.テレワーク推進
6.セキュリティ対策の徹底
それぞれの内容を簡単に紹介します。
1.情報システムの標準化・共通化
自治体独自のシステムから国が策定した標準仕様に沿ったシステムへ統一する取り組みです。原則として、2025年度末までにすべての自治体が基幹系20業務を標準準拠システムに移行することを目指しています。
それぞれの業務に関わる各省庁が標準仕様を作成し、総務省が移行のための進捗確認やヒアリングを担うことで自治体での移行を進めます。これによって運用コストの削減や職員の負担軽減などが期待されています。
2.マイナンバーカードの普及促進
当初の目標は、2022年度末にほぼ全国民にマイナンバーカードが普及することでした。
政府は国民のマイナンバーカードの取得が進むよう、申請の促進や自治体における交付体制の強化に努めることを重点取組事項としました。
具体的な支援施策は下記の通りです。
・個人番号カード交付事務費補助金によって人件費や窓口の増設などに必要な経費を支援する
・2020年度第3次補正予算において申請促進や交付体制のさらなる充実を目指した支援を実施(783.3億円)
3.行政手続のオンライン化
マイナンバーカードの普及にともない、カードを利用した行政手続のオンライン化も目指しています。原則として2022年末までに、すべての自治体で政府が運営するオンライン行政サービス「マイナポータル」において31項目の手続きを可能にすることを明示した事項です。
これによって引越しに必要な行政手続を一貫して行える「引越しワンストップサービス」などを利用できるようになります。
また、この施策によってデジタル化を妨げるアナログ規制の見直しも推進されています。
4.AIやRPAの利用推進
業務効率化に資するAIやRPAは都道府県では導入が進んでいるものの、市町村単位で見るとそれほど進んでいません。
小規模な自治体でも導入されるように、
・国の作成したガイドブックの共有
・複数団体での共同利用
によるコストダウンが検討されています。
5.テレワーク推進
災害や新型コロナウイルスのような感染症が発生したときの行政機能の維持にも役立つことから、自治体でもICTを活用した柔軟な働き方の導入が進められています。
しかし、AIやRPAの導入と同様に、都道府県単位では進んでいるものの、市町村では普及していないのが現状です。在宅ワークのほか、サテライトオフィス勤務などを含め、国は小規模団体の好事例を横展開するなどの支援策を講じています。
6.セキュリティ対策の徹底
個人情報を多く取り扱う自治体でDXを推進するには、セキュリティ対策が欠かせません。国や自治体のクラウドサービスである「ガバメントクラウド」の活用を前提としたセキュリティ対策の方針決定、国と地方のネットワーク環境の統合が検討されています。
自治体DXの現状と取り組み事例8つ
自治体DXの大きな流れとして、ガバメントクラウドの順次拡大、行政手続のオンライン化が政府主導で進められています。
全国の自治体では、DX推進のためにどのような取り組みが実施されているのでしょうか。
総務省の「自治体DX推進参考事例集」から、体制整備や人材確保などに関するDXの活用事例を8つご紹介します。
事例1.外部デジタル人材を活用した体制整備(宮崎県都城市)
事例2.民間との連携によるデジタル人材の確保(東京都中野区)
事例3.マイナンバーカードを活用した電子申請や届出の対応(岡山県鏡野町)
事例4.マイナンバーカードを活用した書かない窓口(福岡県北九州市)
事例5.自治体初のメタバース課(鳥取県)
事例6.ドローンとAIによる被害状況の把握(茨城県)
事例7.AI活用による区民サービスの向上(東京都港区)
事例8.AIを使った児童相談業務の効率化(東京都江戸川区)
出典:「自治体DXの推進」(総務省)
1.外部デジタル人材を活用した体制整備(宮崎県都城市)
DXアドバイザーとして外部人材を採用し、市長をCDOとしたデジタル統括本部をトップに、デジタル統括委員会、専門部会、ワーキンググループの体制を構築した事例です。
デジタル統括課に土木技師を配置したことによって、一般的にDX化しづらい土木・産業分野での取組が推し進められ、関連予算の大幅拡充に成功しています。
2.民間との連携によるデジタル人材の確保(東京都中野区)
新庁舎の整備を機に、システムの標準化・共通化、および働き方改革に対応するために、民間サービスを活用した事例です。
人事部門との調整で委託費などを予算化し、DX推進に向けてきめ細かな対応ができる民間人材サービス事業者の選定と人材の採用を行っています。
3.マイナンバーカードを活用した電子申請や届出の対応(岡山県鏡野町)
マイナンバーカードとスマートフォンだけで、各種証明書の郵送請求など、一部の申請や届出をオンラインでできるシステムを取り入れています。クレジットカード決済にも対応しているため、申請から支払いまでスマートフォンで完結できるようになっています。
4.マイナンバーカードを活用した書かない窓口(福岡県北九州市)
住民が手続きをするにあたり、職員と一緒に質問に答えながら申請可能な制度を一覧にすることで、案内漏れや訴訟リスクを回避する取り組みを実施している自治体です。
氏名をはじめとするマイナンバーカードに記録されている4つの情報を申請書にプレ印字することで、申請者が記入する量をできるだけ抑えた仕組みも構築しています。
5.自治体初のメタバース課(鳥取県)
メタバース空間での情報発信を通して新たな関わり方の創出を目的として、自治体で初めてメタバース課を設立した事例です。
人口減少や高齢化問題解消のために、観光や物産の振興、NFTを活用した応援プロジェクトの企画、24時間365日対応できるAIアバター職員の採用などで、県外の方ともコミュニケーションを増やしています。
6.ドローンとAIによる被害状況の把握(茨城県)
ドローンの自動航行とAIの画像解析を活用したDX推進事例です。大規模災害時の被害状況を迅速に把握することを目的に、距離や障害物を考慮したドローンの自動航行によるパトロールや、ドローンで撮影した画像のAI解析で、早期復旧ができる環境を構築しています。
7.AI活用による区民サービスの向上(東京都港区)
平成30年度を港区AI元年とし、AIやRPA活用による業務効率化や働きやすい職場づくり、さらに行政サービスの向上を推進しています。
▼活用しているAI
・保育園入園AIマッチング
・多言語AIチャット
・AI議事録自動作成支援ツール
・AI-OCR
・みなと母子手帳アプリ
保育園入園AIマッチングの導入では、複数の職員で1週間かけていた業務を数分まで短縮することに成功しました。
また災害や事件発生に迅速に対応するため、SNSに投稿された情報をリアルタイムで収集・分析するAIシステムも導入しています。
8.AIを使った児童相談業務の効率化(東京都江戸川区)
AI技術によって、児童相談所の内部事務を円滑化した事例です。
通話内容をリアルタイムで書き起こす機能を活用して、通話記録にかかる業務負担を軽減しました。
また会話に基づいてマニュアルをすぐに参照できるシステムも導入しました。これにより、経験年数に関係なく的確な支援を提供できるようになったとのことです。
まとめ
デジタル社会を実現するにあたり、自治体DXでは行政サービスの業務効率化を目指すとともに、住民の利便性を向上していくことが求められています。そのため、各自治体は住民の声に耳を傾け、地域の課題解決に向けた取り組みを行う必要があります。
自治体DX推進の取り組みとして、AIを導入する事例もみられるため、現在煩雑となっている業務をAI技術で解決していくのもひとつの手です。
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※この記事は、2023年11月時点での情報です。