DX推進の具体的なメリット
DXは、既存事業をデジタルに置き換えることではありません。AI、IoTをはじめとするデジタル技術やビッグデータを活用して、業務プロセスの変革や改善を目指すものです。
まず、DXを推進することで生まれるメリットをみていきましょう。
業務効率化と働き方改革
DXを進めることで、業務の多くがデジタル化され、手作業の削減や情報の一元管理が可能になります。例えば、紙ベースの書類管理をデジタル化することで、社内外から即時にアクセスできる環境が整い、作業時間が短縮されます。これにより、従業員はリモートワークにも柔軟に対応できるようになり、オフィスに縛られない働き方が実現可能です。
また、DXによってデータ活用が進むと、業務プロセスの効率化が図れます。例えば、在庫管理や発注処理が自動化されることで、人手による作業が減少し、ヒューマンエラーのリスクも低下するでしょう。さらに、データ分析に基づいた最適な業務計画の立案も可能になります。
加えて、デジタル化によって情報共有が円滑となるため、社内全体の生産性が上がります。
市場変化への対応
DXにより、蓄積されたデータをリアルタイムで分析することが可能となり、市場や顧客の変化にいち早く対応できます。例えば、顧客の購買履歴や行動データを分析することで、新たなトレンドを把握し、より効果的なマーケティング戦略を立てることが可能です。
また、SNSやWeb広告などのオンラインプラットフォームを活用して、顧客との接点を増やすことは、リピート率の向上や顧客満足度の向上にもつながります。デジタルチャネルを強化することは、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の維持にも効果的です。
価値のあるビジネスの創出
デジタル技術を活用することで、企業は新たなビジネス価値を創出できます。例えば、AIやIoT(モノのインターネット)を用いて、顧客のニーズに合わせた商品やサービスを提供すれば、顧客満足度の向上が見込めるでしょう。
さらに、顧客データを活用して、個別のニーズに応じたマーケティング施策を実施することで、新商品の開発やサービスの改善にもつながります。こうした取組は、他社との差別化を図る上で重要な要素となるのです。
旧システムからの脱却
DXを推進することで、旧来のシステムからの脱却が可能となります。
企業における古いシステムの利用は、業務の効率化を妨げる大きな要因です。例えば、社内システムが複雑化し、ブラックボックス化することで、メンテナンスや運用に手間がかかり、コストが増加します。さらに、システムの老朽化により、セキュリティリスクが高まる可能性もあるのです。
そこで、新しいデジタル技術を導入すると、業務プロセスがよりシンプルになり、円滑な企業運営が可能になります。
具体例として、クラウドベースのシステムに移行することで、システムの柔軟性が向上し、必要なデータにいつでもどこでもアクセスできる環境が実現できます。
BCPの拡充
BCP(事業継続計画)は、災害やシステム障害などの危機的な事態が発生した際に、事業を継続できるようにするための計画です。DX推進によりリモートワークを行える体制を整備することで、自然災害や感染症の流行時にも、業務を中断することなく対応できます。
さらに、クラウドサービスを導入すれば、データのバックアップや遠隔地からのシステムアクセスが容易になるため、事業の継続性が大幅に向上します。
DXを活用したBCPの強化は、取引先や顧客からの信頼性を高める上でも欠かせない取組となっています。
DX推進が注目される背景
企業だけでなく、国や地方自治体でも、DXが推進されています。ITツールを導入するだけでなく、組織体制の整備や人材の確保などを計画的に実施し、下記の実現を目指しています。
・行政サービスにデジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
・デジタル技術やAIを活用して業務を効率化し、行政サービスのさらなる向上につなげる
ここでは、DX推進が求められている理由について詳しく解説します。
出典:「自治体DXの推進」(総務省)
自治体のDX推進については、こちらの記事もご覧ください。
「自治体でのDX推進の必要性とは?自治体DX推進計画と事例を解説」
消費者行動が変化しているため
スマートフォンをはじめとするデジタルツールが普及し、さまざまな業種においてこれまでとは違った新しい製品やサービス、ビジネスモデルを展開する企業が登場しました。
この急速なデジタル化に伴って、消費者の行動や嗜好、価値観に変化が起こり、企業は競争力を維持するためにビジネスの変革を求められたのです。
デジタルツールは生活インフラとして欠かせないものとなり、ネットショッピングの利用拡大や、ネット上で情報収集する方が増えています。
デジタル技術の活用が競争優位性に関係しているため
昨今、サイバー空間(インターネット)上だけでなくリアル空間におけるデジタル技術の利用が急速に拡大しています。
例えば、小売業界では店内での顧客行動をデータ化し、分析することで、店舗レイアウトの最適化や販売戦略の改善が実現できるようになりました。また、製造業ではIoT(モノのインターネット)を活用し、工場内の機器をデジタルで管理・監視することで、生産効率を向上させています。
今後、世界との競争を視野に入れた場合、デジタルの活用は不可欠です。いかに自社製品やサービスとデジタルを掛け合わせて相乗効果を生み、新たな付加価値を提供できるかがポイントになります。
2025年の崖が指摘されたため
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表したDXレポートで使われた言葉です。このレポートでは、企業がDX推進を怠った場合、2025年から年間で約12兆円の経済損失が発生すると予測されました。
2025年の崖で問題視されているのは、既存システムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化が進み、DXへの移行が遅れてしまうことです。DXが進まない場合、既存システムの維持管理費が膨らみ、経営を進める上での障害となるおそれがあります。
この問題は大企業だけでなく、中小企業や個人事業主も影響を受けるとされています。2025年の崖を乗り越えるためには、DX推進が不可欠です。
DX推進には、まず自社内の課題を抽出する必要があります。そして、問題解決に向けた計画を立案し、全社で段階的に取り組むことが重要です。
経済産業省の試算によると、2025年までにDX推進が進展した場合、2030年には実質GDPが130兆円上昇するとしています。
出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」
DX推進のデメリット・注意点は?
DXを推進するにあたって、課題としてシステム導入費や教育にかかるコストがあげられます。また、成果が出るまでにある程度の時間がかかるため、モチベーションを維持する施策も必要です。
コストがかかる
DXを推進する際は、システムの刷新や従業員の教育費用など初期投資が膨大になります。
ほとんどの企業はIT予算を既存システムの維持管理に費やしており、DXをはじめとする将来に向けた投資ができていない状況です。
企業の財務状況によっては経営に大きな負担となる場合があるため、既存システムとの置き換えなども検討する必要があります。
従業員の教育においては「労働時間」というコストも発生するため、効率的な計画を検討しなければなりません。
成果が現れるまでに時間がかかる
DXは、デジタルツールやシステムの導入だけでなく、組織変革が必要になる場合があります。
DXは単なるIT化ではありません。導入自体がゴールではなく、ビジネスの変革が目的となるため、成果として現れるまでには時間がかかります。
全社にDXを浸透させるためには、推進のリード役を担う人材選定が重要です。企業の意識改革を最前線で促進できる人物を、ロールモデルとしてアサインしましょう。
自社のDXを効果的に進めるポイント
DXを効率的に進めるためには、下記2点がポイントになります。
・DX人材の確保(DXのリード役、システムエンジニア、データサイエンティストなど)
・経営層から従業員まで、全社で当事者意識を持って取り組む
また、働き方改革との時間的な両立ができるよう、人事制度や給与体系なども必要に応じて見直しが必要です。
DX人材を確保する
経済産業省の試算によると、2030年には最大79万人のIT人材が不足する見込みです。この深刻な人材不足を背景に、企業間でDX人材の獲得競争が一層激化しています。
DX人材とは、システムエンジニアやデータサイエンティストに限らず、ビジネス戦略とITの両方を理解し、組織全体のデジタル化をリードできる人材を指します。DX人材の確保には、社内で適任者を登用する方法と、競合他社から優秀なDX人材をスカウトする方法があります。
外部から人材を探す場合は、採用したいターゲットを明確にした上で、自社の魅力を効果的にアピールすることが大切です。
また、IT人材の供給が不足している現状を踏まえ、労働環境や待遇の見直しなども検討し、求職者の視点に立って採用条件を定めることをおすすめします。
出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」
全社で取り組む
DXは事業変革であることを経営層が認識し、IT部門や部署、チーム単位ではなく、組織全体で推進に取り組むことが成功のカギです。
一部の社員に丸投げするのではなく、新しい技術やシステムの運用方法を社内に浸透させることで業務改善につながります。
また、現場の従業員からの意見やフィードバックを積極的に収集し、誰もがDX推進の「当事者」であると意識させることも重要です。
どの企業もDX推進が急務であるため、DXを主導する担当者には適切な責任と権限を与え、その能力を最大限に発揮できる環境を整えるようにしましょう。
まとめ
DX推進は単なるIT化ではなく、組織の事業変革を目的とし、市場変化への迅速な対応や業務効率化、リモートワークの推進などのメリットがあります。
2025年の崖など、DXに取り組まなかった場合のリスクを考えると、計画的かつ具体的に推進方法を検討することが重要です。
成果が出るまでには時間がかかるため、財務状況などを考慮して、自社に適した方法でDX推進に取り組んでいきましょう。
※この記事は、2024年10月時点の情報に基づいています。