人手不足に有効な対策とは?具体的な方法や成功事例を紹介

近年、少子高齢化や産業構造の変化に伴って、企業の人手不足が加速しています。人手不足は、従業員の負担増や離職の増加などを招き、企業経営に悪影響を及ぼしてしまいます。 今回は人手不足を引き起こす主な原因と有効な対策、AIを活用した人材不足解消の成功事例を紹介します。また、AI活用による人材不足対策に関心のある方は、ぜひご覧ください。


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人手不足が起こる原因

帝国データバンクの調査によると、人手不足に悩む企業の割合は全業種の51.5%を占め、なかでも物流や建設などの業界では約70%に達しています。こうした人手不足は、どのような原因で起こるのでしょうか。

出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)

少子高齢化

少子高齢化が進むにつれて労働力人口は減少し、人材不足は深刻化しています。

総人口に占める65歳以上の割合を示した「高齢化率」は2023年に29.1%に達し、世界的にみても日本の高齢化は高水準で進行しています。さらに2010年代以降、労働力人口の多くを占めてきた団塊の世代が定年退職を迎えたことにより、人手不足が加速しました。

また、日本の出生数は2023年には年に過去最少の約73万人まで減少しており、高齢化と並行して少子化も進行しています。2056年には総人口が1億人を割り込むと予想されていることから、労働力人口は減少の一途をたどり、人手不足も深刻化すると考えられています。

出典:
内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)
内閣府「令和5年度 年次経済財政報告(第2章 家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題)
厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況

企業と求職者のミスマッチ

産業構造の変化に伴って、企業と求職者のニーズが不一致を起こし、需要と供給にギャップが生じたことも人手不足の原因です。特定の職種に求職者が集中するため、業種によっては求人を出しても応募者が集まらず、求職者は希望の求人が見つからないという構図です。

東京ハローワークの調べでは、事務職の有効求人数22,274人に対し、有効求職者数は48,090人と需給に倍以上の差があります。一方で、販売業、サービス業などは求職者数よりも求人数が圧倒的に多く、人手不足が深刻化している状況が伺えます。

職種 有効求人数(人) 有効求職者数(人)
販売従事者 25,181 8,774
サービス職業従事者 39,711 9,373
IT関連の職業(※) 23,907 8,535
建設・採掘従事者 8,857 1,239
福祉関連の職業 30,475 5,869

出典:東京ハローワーク「職業別有効求人・求職状況(一般常用) 令和6年6月分

※システムエンジニア、プログラマーなどIT技術関連を中心とした職業を指しています。

人手不足を解決する有効な対策5選

人手不足を解消するための施策は、採用の強化だけではありません。次に、人手不足の解消に効果的な5つの対策をみていきましょう。

職場環境改善

人材不足の解消を図るには、従業員が「ここで働きたい」と思えるような職場環境づくりが重要になります。なぜなら働きやすい環境が整備されてこそ、従業員の定着率は高まり、仕事への意欲も引き出せるためです。

具体的には、定期的なストレスチェックを実施した上で、従業員の視点から社内設備や作業環境、仕事内容などを見直してみましょう。下記がその例です。

・作業効率を高めるデスクや椅子の選定、配置
・オフィス内の照明や空調の整備
・業務効率化につながる備品の調達
・上司や同僚との良好な人間関係
・従業員のスキルや能力に合わせた仕事の割り振り
・清潔なトイレや快適な休憩室の設置
・防災やセキュリティなどの安全対策

快適に働ける環境は、従業員のストレス低減や作業効率の向上のほか、離職率の低下、求職者へのアピール材料にもなります。

人事制度の見直しと働き方改革の推進

従業員の定着や優秀な人材の獲得にも一役買うのが、適切な人事制度と働き方改革の推進です。

日頃の努力が評価される公平な人事制度は、従業員のモチベーションや貢献意欲の向上につながります。成果に応じた昇給や昇格、インセンティブの付与などにより、目標が明確化することで従業員の意識が変わり、企業の生産性にも良い影響を与えます。

また、長時間勤務が常態化した働き方は離職を招き、人手不足を助長する原因のひとつです。そのため、多様な働き方の実現を目的に、次のような福利厚生の整備も人手不足の解消に有効な施策となるでしょう。

・時短勤務の導入
・リモートワーク環境の整備
・育児・介護休暇制度の導入
・副業や兼業の許可

特に、結婚や出産、育児などで離職した社員、体力面からフルタイム勤務が厳しいシニア層などに向けた訴求材料として効果的です。

ITツールの導入

業務によっては、ITツールで人手不足を根本的に解決できる場合があります。名刺情報の手入力、議事録の作成などがその例です。多くの時間と人手を要する業務の自動化、省力化を図れます。

ITツールのメリットは、主体業務にも時間を投入できるため、少ない人員でも業務効率化や生産性向上が目指せる点です。最近では、次のようなAI搭載のITツールも普及しています。

・質問に自動対応するAIチャットボット
・業務を自動化するRPAツール(PCで行う定型的な業務プロセスをロボットで自動化するソフトウェア)
・受付業務を無人化できるAI受付
・AI搭載の営業リスト作成ツール

AIの活用により、人手よりも高速・高精度の処理や24時間365日の稼働が可能になります。

リスキリング・学び直し制度の導入

デジタル技術の進化やビジネス環境の変化に対応すべく、労働者が新たなスキルや能力を獲得するための取組として、リスキリングや学び直し制度があります。

リスキリング:付加価値の高い新たな職務や業務を担える人材の育成を目的に、今までとは異なるスキルや能力が身に付けられる機会を企業主導で提供することです。

学び直し制度:就業後も必要に応じて教育を受け、時代のニーズに合った専門的な知識や技術の習得を目指します。従業員のスキルや能力を再評価して、業務効率化や適材適所を実現する取組です。「リカレント教育」とも呼ばれます。

どちらも既存の人材の戦力やモチベーション、定着率の向上に効果的な施策であることから、人手不足対策としても導入されています。

アウトソーシングの活用

人手が足りず、外部の専門的な知識やノウハウも取り入れたい業務では、アウトソーシングを検討するのもひとつの方法です。一般に、電話対応や事務作業、経理管理などのノンコア業務がアウトソーシングの対象となります。

アウトソーシングは、慢性的な人材不足の解決策となるだけでなく、人材の採用や育成にかかる手間とコストを削減できる点もメリットです。

人手不足対策の成功事例

業種、業界を問わず、日常業務にAIを導入する企業は年々増加しています。続いて、人手不足対策の参考となるAI活用の成功事例を3つ紹介します。

【花キューピット株式会社】チャットボットで繁忙期の人手不足に対応

フラワーギフトの宅配事業を手掛ける花キューピット株式会社では、カスタマーセンターの人手不足の解決策として、チャットボットツールを利用しています。人員配置や業務効率化といった従来の方法では、繁忙期に対応しきれなくなっていたことが導入の理由です。

導入したチャットボットツールは、事前登録したQAデータを基に、顧客からの問い合わせ業務を自動化する仕組みです。
運用後はQAデータの改善にも取り組んだ結果、人手不足の解消や人件費削減によるコストメリットを実現したほか、離脱の予防や顧客満足度向上にも貢献しています。

【大和証券】ChatGPTを情報収集・文章作成に活用

大和証券株式会社では、蓄積してきたデータやAIに関する知見を基に、情報収集や文章作成などの日常業務でChatGPTの利用を推進しています。約9,000人の全社員が対象です。

・英語での情報収集のサポート
・企画書や資料の作成
・プログラミング業務のサポート

上記のような用途でChatGPTを活用することにより、業務を効率化して、顧客対応や企画立案などにかける人員や時間を確保する狙いです。Microsoft社の「Azure OpenAI Service」の活用を通じて、セキュリティ性の高い使用環境を確保しています。

【LINEヤフー株式会社】生成系AIの導入でエンジニアの作業時間を削減

LINEヤフー株式会社では、2024年7月、生成系AIを活用した独自開発の業務効率化ツールを全社展開すると発表しました。生成系AIと社内データベースなどを連携させることで、部門ごとに最適化された回答を得られるとし、年間で70~80万時間に及ぶ作業時間の削減を計画しています。

下記は想定される具体的な活用シーンです。

・取引先とのコミュニケーション履歴の確認
・社内規定やルール、業務手順、問い合わせなどの確認
・技術スタックの検索や選定

テスト導入では、約98%のカスタマーサポートの正答率、コーディング業務の工数と作業時間の削減などを達成しています。

まとめ

少子高齢化、企業と求職者のニーズの不一致などを原因に、企業の人材不足は進行しています。採用の強化だけでなく、職場環境の整備や働き方改革の推進などで、従業員の意欲や定着率の向上を目指すことも、中長期的な人材不足の改善につながります。

人手不足の根本的な解決には、ITツールによる業務効率化も有効です。自動化できそうな業務が多い場合は、生成系AIの導入も検討しましょう。下記の記事では、生成系AIの活用方法を詳しく解説しています。生成系AIに関心のある方は、ぜひご一読ください。

生成AIの仕組みとは?できることや課題をわかりやすく解説!

※この記事は、2024年10月時点の情報に基づいています。